Time Flies

fckey's Tech Blog

アルゴリズムと人、数式と鮨。

アルゴリズムが世界を支配する。

検索エンジンのインデキシングやページランク、高頻度取引、商品のレコメンドエンジンなど今やありとあらゆる所でアルゴリズムが利用されている。もちろん人より精度も速度もアルゴリズムが圧倒時に優っている。

これからは人がアルゴリズムを”使う”というよりは、アルゴリズムが人の意思決定をする事の方が多いだろう*1

そもそも人は考える行為を他に任せるのが好きな生き物だと思う。その一例がインターネットだ。

インターネットは偏在している知をへのアクセスを可能にした。一部の学会所属者のみが読めた論文、海外の情勢や景色、普段は接することのない高齢者と話すことでのみ知り得た戦争の話、職人的技能。そういうものを多くの人間の手が届くものにしたのがインターネットだ。

しかし、インターネットを通して情報を利用し多くの人が思考を加速させるはずだったのだが、人は考える事をすらも外部に頼るようになった。ハードディスクだけでなくCPUすらインターネットの向こう側に任せてしまった。大学生のWikipediaのコピーレポートがいい例だろう。

そして人は他人に頼るだけでなく無機質で感情のないアルゴリズムにも頼っている。映画評論家の勧める映画ではなくアルゴリズムが選んだ自分の好みの映画を選び、編集者が構成した新聞記事ではなくアルゴリズムが選んだニュースを嬉々として読む。

人の役割は次第にアルゴリズム取って代わられ、より正確で素早い結果が得られるようになる。

GoogleAmazonFacebookなど一部の優秀な人々が作っている大きな流れにのり、世界はアルゴリズムに支配される。 良い記事、良い商品は人ではなくアルゴリズムが選び我々に選択肢は与えられない。

一方で、人はアルゴリズムに負けていい部分とそうでない部分があるらしい。その違いなんだろうか。

例えば、Lispで書かれた作曲家エミー。デイヴィッド・コープ氏によって作られたこの作曲家はバッハの曲を学習データとして使用し、多くの曲を生み出した。 エミーが作曲した曲は出来がよく、あるオーケストラ様に作った曲はあまりに感動的でアルゴリズムが作った曲だとはわからない音楽家が居た。 しかし、そういった曲達がアルゴリズムによって出来たものだと知ると「魂がこもっていない」などと避難し、冒涜しているとコープしを殴るものも居た。 楽曲の質は良くとも人に作られたか、アルゴリズムにより作られたかで評価はがらりと変わってしまう。

将棋電王戦ではコンピュータ側が人間のプロに勝ち越した。将棋に詳しくないプログラマからするとコンピュータが勝つのは妥当のように思われる。単純なソートもダイクストラの最短経路も人は速度でコンピュータにはまず勝てない。 それと同様にこの完全情報ゲームで一流のプロ達はコンピュータに負けた。 棋士は歳をとると思考力は落ちるが、積み重ねた経験からくる直感で最善手が見え強者で居続けるという*2。 しかし、多くの解法パターンの中から最適解を見つけ出すコンピュータの側は、ある意味力技で直感力で戦う棋士達に勝った。 これは人類のコンピュータに対する敗北のようにも感じられ、計算能力からすると当たり前のように思われるのだが、同時に何か悔しい気持ちがあるのは自分だけじゃないと思う。

アニメPSYCHO-PASSもコンピュータによる支配と人間による支配の受け止め方に対する示唆に溢れている。 このアニメでは人の犯罪を起こす可能性が数値として表されており、その犯罪係数の高低によって可能な就職先や生活基準が決定さる。さらに係数が一定数を超えると実行していなくても逮捕されてしまう。 作中でこの数値はコンピュータの演算で行われているとされているが、実際は多数の人間の脳をつなぎあわせて導き出されていた、という展開がある。このことが公表されるとまずいという描写があるが、何故だろうか。 アルゴリズムで犯罪者と宣言されることと、人の脳の連結体にそう言われることは何が違うのだろう。

アルゴリズムは合理的な選択をする。疲れは感じず余計な情報にも影響されない。そして人も何かを選択をするとき、突き詰めていけばアルゴリズムと同じ選択をするだろう。 違いは何か。人とアルゴリズムの違いは”無駄”を重要視することじゃないだろうか。 伝統や感情、偏見、見栄など功利的に考えたら省くべきものを人は時に重要視する。本来必要ではないこれらの無駄たちがこそが人を人たらしめているのだろう。

伝統を重視するからこそ機械的に並べられた音符は受け入れられず、単調に動く機械には人は負けたくない。 同時に、人を判断するのは偏見やしがらみを持つ人ではなく、情報を黙って無感情に処理するコンピュータでないと納得がいかない。

無駄を省き正確で素早い意思決定が可能なアルゴリズムはこれから先も我々の生活を確実に向上させるだろう。

それでも僕は生産管理されたネタと機械的に生産されるシャリで作られる鮨より、職人が自身で見分けた魚を捌いたネタと手で重みを感じながら握られたシャリでできた鮨を食べつづけていきたいと思う。

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*1:もしかしたら知らないうちに

*2:評価関数の精度と探索エンジンの性能が優れているということだろう